『 千と千尋の神隠し 』

Spirited Away (2001) Japan 2hr. 10min.


10歳の少女・千尋が迷い込んだ不思議な世界、そこは神様たちが疲れを癒しにやってくる「湯場」だった。

引越し先に向かう長い旅、車のバックシートの千尋は退屈していた。ハンドルを握る父親が近道をしようと選んだ小道は行き止まりでそこには車の通れない古いトンネルがあった。車から降りた両親はいやがる千尋を連れて中に入る。トンネルを抜けた処にあったのは原色が渦巻く奇妙な街だった。そこは八百万の神達が疲れを癒すためにやってくる温泉場だったのだ。俗っぽい欲に毒されていた両親はあっという間に豚の姿に変えられてしまった。ひとりになって途方にくれる千尋はハクという少年と知り合い、生きのびる為には気に入られて働かなければならないというそこのしきたりを知った。千尋は両親を救おうと決心する。不思議な世界に迷い込んだ少女の冒険が始まる。

表面的にはパラレル・ワールドでの少女の冒険だが、実は少女の自我の芽生えと社会生活への目覚めた自分に向き合っていく成長過程を表現したものと感じた。 誰でも子供の頃に自分の世界の中で次から次へと新たに登場する試練に立ち向かい闘って成長してきたと思う。その過程の積み重ねの上に現在の自分が存在するわけである。現在の自分が普段は意識しないその積み重ね部分にある10歳の少女の成長過程をひもとく面白さ、タイムマシンに乗って自分の経験した道を体験する様な興奮を得た。それと同時に、現在の自分の在り方を見つめることにもなり、この映画が他の映画にない感動をひきおこし心に深く残ったのはそういった潜在意識に語りかけてきたからではないだろうか。

戻ってきて元通りの両親に会えた千尋の髪の毛は、不思議な世界で湯婆の姉妹の家で貰った紫色のゴムがしっかり留められていた。あの世界での出来事は、夢ではなかった、あの世界の経験を経て今の自分が在る、という事を爽やかに表現したエンディングは見事。

宮崎駿監督によると「思春期を前にした女の子に見てもらいたいという気持ちで作った」との事。そのターゲット層は人生過程の経験値が低いから千尋の冒険の追体験と自分の成長を重ねあわす事なんて当然思わないだろうが、その年代の人はどう観るのだろうか、と思う。この映画はほんとうに観る人によって様々な解釈が自由に出来るところに大ヒットの鍵があったのだろう。


dir: 宮崎駿
(21NOV01)

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