『 恋愛小説家 』

As Good As It Gets (1997) U.S.A.、2hr. 18min.



マンハッタンのアパートに住む小説家、同じアパートに住む画家、そして、小説家が毎日食事に通うレストランのウエィトレス、この3人がちょっとしたことで互いの私生活にかかわる事となり夫々の人生感と人生が変わっていく。

メルビン(ジャック・ニコルソン)はマンハッタンのアパートでひとり住まいで恋愛小説の大家だ。ロマンティックな言葉をちりばめた彼の作品にはファンが多い。 しかし、実際の彼はロマンティックどころか、かなり変わったイヤな人なのだ。 どんなに彼が変わっているのかというと、自己中心的で人の事は考えずに平気で人を傷付けるし、かなり偏屈で人間嫌いに加えて且つ、道路のスジが踏めない強迫神経症でもある。 きれいに片付いているアパートの部屋の施錠はいつも5回確かめないと安心できない。 更に、潔癖症で、一度使った石鹸は二度と使わず捨ててしまうのだ。 行き付けのレストランでも備え付けのナイフとフォークは使用せず、毎回プラスティック製の使い捨てを持参する。

毎日食事をするレストランのウェイトレス、キャロル(ヘレン・ハント)はシングル・マザー。強度の喘息を抱えた息子の為に仕事場と家の往復だけの生活でデートもままならないが、自分の人生とはそういうものだとして暮らしている。

メルビンと同じアパートの隣人サイモン(グレッグ・キニー)はゲイの画家。 シーズー犬のヴァーデルと一緒に住んでいる。 ヴァーデルはホールでメルビンと出会うと吠えてばかりいて、ある時など癇癪をおこしたメルビンにコンパクター・シュートに投げ込まれてゴミの山から救出された経験を持つ。

以上が主な出演者である。ある日、画家が居直り強盗に重症を負わされ入院、退院後も当分車椅子の生活となった。 そこでメルビンが犬の世話を引き受ける事となる。
犬の散歩に出たメルビンはヴァーデルもまた道路の繋ぎ目が踏めない症候群であることを見つけ、犬との間に連帯感が生じる。 今までにない自分以外への生命体への信頼感が少しだけ芽生えた瞬間である。
さらにウエィトレスへの恋心や、怪我して困っている隣人の画家を助けてあげようと思う心など今まで自分が認識していなかった柔らかいものに戸惑いながらも徐々に対応していくぶきっちょなメルビンの姿が良い。

メルビンは偏屈な変人という設定だが、特別に変わった人には思えなかった。 一般的にはイヤな人なのかもしれないが、けっこう好きなキャラクタだと思った。 そこがこの映画のミソなのでは無いかとおもう。毎回石鹸を捨てることは無いにせよ、他所でドアを開ける時には必ずペーパータオルで覆い直に触らないようにする人は会社にいるし、自分の領域を整然として保ちたい欲求はわたしに宿っている。 他の点でもきっと大抵の人が持っている「ちょっと一般的でない」部分で映画への感情移入を容易にしているのではなかろうか。

ジャック・ニコルソン、ヘレン・ハントともに演技が素晴らしいが、なんといってもこの犬が最高。 目の演技が愛らしく、すねる時などとにかく可愛い。

1997年度アカデミー賞で7部門(ベストアクター、べストアクトレス、作品、編集、音楽、サポーティングアクター(グレッグ・キーニー)、脚本)にノミネート、 主演男優賞と主演女優賞を受賞した作品。犬がノミネートも受賞もしていないのがひどく不満である。内容を無視した邦題にも不満であるが。

dir: James L. Brooks


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