アイルランドの首都ダブリンは人口の1/4以上が住む商業都市だが、大都市特有の殺伐としたようなところは無く、人々は親しみがあり、居心地が良い街。

ジョージアン＆ヴィクトリアン様式の建物が並ぶ美しい街並み、運河に映る景色、豊富な緑、おいしい水と食べ物、ゆったりとした生活が感じられる。

しかしアイルランドは一方では血なまぐさい民族運動の歴史があり、そういった背景に支えられた人々の強さが反映された国民性があらわれていて興味深い。

イタリアでは全てが美的だ。

ミラノでは『最後の晩餐』の観賞およびDuomoの屋上からのビューが最大のハイライトだったが、ほかに街を歩き回っていると随所で遭遇したアトラクションがある。

それは建造物、とくに入り口。 入り口のゲートの少し奥に空間を設けるというスタイルが多く、通りから見ると奥行きがあり美しい。

イタリアは全てが美的だ。新しいものはモダンな美があるし古くから存在するものは歴史の重みが加わり美しい。 古びた家々すらも美しい。優れた工業デザインやイタリアン・ファッションが生まれてしかるべき背景が生活に密着している。

水の都ベニスの印象を一言でいうなら、映画や写真でみたとおりの映像をキャプチャできる町、となる。

曲がりくねった細い路地と運河が縦横無尽に交差し、ところどころにかかる橋はひとつひとつが違う。全ての交通はボート（水上バス、タクシー、ゴンドラ）となり、自動車は一台も無い。 どこも絵になるシーンばかりだが、しかし、数時間で堪能してしまう。というのも観光客が多すぎて景色を楽しむ空間が持てないのだ。 よってルキノ・ヴィスコンティやトーマス・マン、グスタフ・マーラーといったイメージに浸るのは困難。

ベニスへはミラノから列車でアクセス。本土のベニスにある中央駅から水上バスでベニス島へ渡る。 ベニス島のプライム・エリアは古色蒼然とした佇まいが特徴なので全ての建造物はいまにも壊れそうな状況を保っている。 修復をする際も雰囲気を壊さないようにウエザーリングに気を使っていると見受けた。

とにかく観光のみで成り立っている土地ゆえに、ほぼ全ての店はツーリスト目当てと思って間違いない。 良心的なところからツーリスト・トラップな場所までさまざまだろうが、土地の特徴および国民性を前提とすれば腹も立たない。

アイス・ストームの2日後、青空がひろがった。

ランチタイムに散歩に出る。オフィスの前にある公園は人の足跡のない雪がたっぷり残り、太陽が反射してまるでスキー場にいるようなまぶしさ。

今日は「アッシュ・ウエンズデー（灰の水曜日）」。 キリストの受難を思い、この日からイースターまでの46日は断食（肉などの特定のものを食べない）を行うというカソリック教会の最も厳粛な儀式のはじまる日である。

かつて信者は灰の上に座りこの時を過ごしたそうだが、今は教会でおごそかに灰を額に塗りつけてもらう。カタチは十字だったり、単に塗りつけただけのようなカタチだったりいろいろ。 特別な灰は、前の年のイースターの７日前に用いた特別のナツメヤシか特別のシュロの枝を燃やして作るのだそうで、一年がかりのプロジェクトなのだ。 宗教や儀式とは大変なもの、厳かな雰囲気を高めてありがたみを増す為に敢えて面倒な手順をふむようにしているのかもしれない。

この日が来ると、あと一ヵ月半でイースター、春も近いと実感する。